博物館のきのこ標本が新種に! アマチュアの活動実る!

平成26年7月9日

平塚市博物館
担当 学芸担当 栗山
電話 0463-33-5111
 

博物館のきのこ標本が新種に!
アマチュアの活動実る!

 
 平塚市博物館に標本として保管されていたきのこが新種であることが、このほど明らかになりました。日本菌学会の学術誌MYCOSCIENCE(日本菌学会英文誌)オンライン版に鳥取大学助教の牛島秀爾氏らの論文が5月27日、公開され、 この新種はトゲミフチドリツエタケ(ダクティロスポリナ ブルンネオマージナータ)と名付けられました。論文によると、ダクティロスポリナ属の正式な記録は、日本だけでなくアジアで初めてです。
 新種の発見で重要な役割を果たしたのは、アマチュアのキノコ研究会、神奈川キノコの会が採集し平塚市博物館に保管されていた2つの標本です。このうち1999年に相模原市仙洞寺山で採集した標本が、ホロタイプ(正基準標本)に指定されました。ホロタイプは学術上きわめて重要な標本で、平塚市博物館で初めてのホロタイプです。
 

神奈川キノコの会

 アマチュアのきのこ研究会として1978年発足。きのこに興味を持つ人なら誰でも入会することができ、現在、会員数約250人。
 調査・研究の結果を残し、分類学研究の学術的な資料とするため、1990年より平塚市博物館と協力し、同会が収集・作成したきのこの標本を市博物館で保管することにしています。神奈川県を中心に蓄積してきました標本には、学術的に価値の高い標本が多く含まれています。
 

経緯

 1995年 神奈川キノコの会がツエタケ(トゲミフチドリツエタケ)の標本を採集。
 1997年 神奈川キノコの会が収集した7年間の標本が、「平塚市博物館資料46 キノコ類標本目録」として発行される。
 1999年 神奈川キノコの会がツエタケ(トゲミフチドリツエタケ)の標本を採集する。
 2012年 89年に鳥取で採集された標本を基に、ツエタケ類の研究を進める鳥取大学の牛島氏が、平塚市博物館にあるきのこ標本に注目し、標本の調査に訪れる。
 2013年 平塚市博物館の保管するツエタケ類標本の中に未記載の種類があるため、新種として発表する論文を日本菌学会の学術誌MYCOSCIENCEに投稿(2014年1月、受理)。
 2014年 論文(オンライン版)が公開される。
 
 
 

展示・講演会

 ホロタイプ(正基準標本)の展示
 7月10日(木)~9月15日(祝) 博物館2階展示室
 
 講演会「きのこの話~新種ってなぁに?」
 8月31日(日)13時~15時 平塚市博物館講堂(定員50名 当日先着順)。
 牛島秀爾氏(論文著者・鳥取大学助教)
 城川四郎氏(神奈川キノコの会会長)
 

トゲミフチドリツエタケ

 胞子に突起があり、ひだに茶色いふちどりがある点が特徴です。小さめのシイタケを薄くし、柄を細長く伸ばしたような形をしています。食用の可否・毒の有無は不明です。
 エノキタケと同じタマバリタケ科に属します。この科の柄が杖のように長いきのこの総称がツエタケです。
 

トゲミフチドリツエタケのホロタイプ

 大きな標本で
 傘の直径 約5センチ
 柄の長さ 約9センチ
 
 

新種の記載と標本について

 未記載種を新種として記載するためには、国際的な命名規約に則って、論文として発表する必要があります。生物の種にはそれぞれ学名が与えられており、学名のない種のことを未記載種(新種)と呼びます。学名は、命名規約に基づいて与えられ、必ず基準となる標本(ホロタイプ・正基準標本)が必要です。タイプ標本(ホロタイプを含む新種の記載に伴う指定された標本群)は、その種が存在する確かな証拠であるとともに、将来その種に疑問が出た際に使用する重要な研究材料でもあります。
 新種の記載は分類学的研究の始まりにすぎず、研究が進んだとき、ある種が別の種と統合されることはよくあります(統合された場合、古い方の種が残ります)。また、一度統合された種が再度分けられることもあります。こういった種の再検討が可能なのは、タイプ標本が世界各地の博物館や標本庫に残されているからです。
 和名(慣用名)があって、学名がない場合は学名を与える研究をする必要があります。今回のトゲミフチドリツエタケが他のツエタケ類と違うことは、神奈川キノコの会会長の城川四郎氏によって指摘されていました。トゲミフチドリツエタケのように、存在は知られているものの、学名のない生物は数多く存在します。この度の牛島氏らの研究によって、新種として、科学的に正式な名前(学名)が与えられることになりました。
 きのこは他の生物に比べて、未記載の種類が特に多いのが現状です。その理由として、きのこに関心を持つ人や愛好者は少なくないものの、標本の作製・保存が容易ではないために標本が残らず、他の動植物と違い、アマチュア研究者による多様性研究のベースアップが難しいという状況があります。正式に学名が与えられない状況が、きのこ類の同定を難しくし、庭先で採集されるきのこでさえ図鑑で名前が付けられないことがあります。
 
 
 
  • トゲミフチドリツエタケのホロタイプの写真