第1章 基本構想策定の趣旨 1.1 策定の背景 我が国では、本格的な超高齢社会を迎える中、ノーマライゼーションの理念に基づくまちづくりの一環として、特定建築物について「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築に関する法律」(平成6年度施行、以下「ハートビル法」という。)を施行し、建物や施設等のバリアフリー化を推進してきました。さらに、旅客施設を中心とした移動空間のバリアフリー化を推進するため「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(平成12年度施行、以下「交通バリアフリー法」という。)の施行により、公共交通事業者や道路管理者が連携してバリアフリー化を推進するための基本構想を策定できることとなりました。 本市では、交通バリアフリー法と同法第3条の基本方針に基づき、平塚駅、周辺道路、駅前広場、信号機等のバリアフリー化を重点的かつ一体的に推進するため、平成17年に「平塚市交通バリアフリー基本構想」(整備目標年次 平成22年度)を策定し、平塚駅周辺を重点整備地区に位置付け、整備の推進に努めてきました。また、ハートビル法と交通バリアフリー法を統合・拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年度施行、以下「バリアフリー法」という。)と同法第3条の基本方針に基づき、平成26年3月に「平塚市バリアフリー基本構想」(整備目標年次 令和2年度、以下「旧基本構想」という。)を策定し、重点整備地区の拡大等、さらなるバリアフリー化の整備を推進してきました。 今般のバリアフリー法の改正において、平成30年11月の改正では移動等円滑化促進方針(マスタープラン)制度が創設されました。また、令和2年6月の改正では学校教育と連携した心のバリアフリーの推進に関する事項が追加されるなど、ハード・ソフト両面でのバリアフリー化を幅広い関係者が連携して取り組むことがますます重要になっています。 表1-1 基本構想の推進の経緯と関係法令 平成17年11月 平塚市交通バリアフリー基本構想の策定 関係法令 交通バリアフリー法及び同法第3条の基本方針に基づき策定 目標年次(施設整備) 平成22年度(2010年度) 進捗管理 平塚市交通バリアフリー特定事業推進協議会 平成26年3月 平塚市バリアフリー基本構想の策定 関係法令 バリアフリー法及び同法第3条の基本方針に基づき策定 目標年次(施設整備) 令和2年度(2020年度) 進捗管理 平塚市バリアフリー推進協議会の開催 平成30年11月 バリアフリー法の一部改正 移動等円滑化促進方針(マスタープラン)の創設 令和2年6月 バリアフリー法の一部改正 心のバリアフリーの推進に関する事項(学校教育関係)の追加 令和3年4月 バリアフリー法第3条に基づく基本方針の改正 目標年次(施設整備) 令和7年度(2025年度) 1.2 策定の目的 本市では、これまで積み重ねてきたバリアフリー化の取組をさらに推進し、誰もが利用しやすい環境整備を促進するため、バリアフリー法及び同法第3条の基本方針の改正等を踏まえて、「平塚市バリアフリー基本構想(改定版)」(以下「基本構想」という。)を策定します。 本基本構想は、高齢者や障がい者等、誰もが安心して電車やバス、タクシーに乗り降りでき、また駅から周辺の目的地までの行き来きや、施設を安全に利用できるなど、安心して日常生活や社会生活をおくることができるように、公共交通の利便性や安全性の向上、移動しやすい環境整備、さらに、高齢者や障がい者等の特性を理解し合う心のバリアフリーを広めていく取組を位置付けます。そして、「平塚市バリアフリー推進協議会」を通じた各事業者との連携を強化し、ハード、ソフトの両面からのバリアフリー化を総合的かつ一体的に推進することで、ユニバーサルデザインを取り入れた、社会的・経済的に活力ある持続可能な社会の形成や、共生社会の実現を目指します。 ※1 「高齢者や障がい者等」の対象者として、怪我等による一時的な車いす・松葉杖使用者、妊婦、ベビーカー使用者等も含めています。 ※2 様々な心身の特性や考え方を有する全ての人々が、相互に理解を深めるためにコミュニケーションをとり、支えあう考え方のこと。 ※3 ユニバーサルデザインとは、あらかじめ、障がいの有無、年齢、性別、人種等にかかわらず、多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方のこと。 コラム(バリアフリーマップ) 共生社会の実現に向けて、市民や来訪者がお互いに理解し合い、支え合うことができる「心のバリアフリー」の理解をさらに広げていくためには、本市のハード及びソフトのバリアフリーの取組を広く情報発信する必要があります。 本市では、「オリパラ基本方針推進調査」モデルプロジェクト(オリパラ基本方針推進調査事業)を活用して、本市のバリアフリーの取組を掲載したバリアフリーマップを作成し、令和2年12月6日(日)開催の共生社会ホストタウン促進イベントにおいて、当該マップの配布とともに、アンケート調査を実施しました。アンケートでは、バリアフリーの理解と関心を高める広報・啓発活動や、学校での教育が重要であるとの回答が多くありました。 なお、当該マップは、イベントでの配布のほか、本市ホームページでの掲載や、重点整備地区内の生活関連施設への配架により広く情報発信しています。 1.3 策定の意義 本市では、少子高齢化が急速に進み、年少人口や生産年齢人口が減少する一方、老年人口の増加が顕著になっています。また、障がい者人口も増加傾向にあります。 こうした社会的背景の中で、本基本構想に基づき、施設が集積する地区で面的・一体的なバリアフリー化整備を進めることは、高齢者や障がい者等の移動や施設利用の利便性及び安全性の向上が図られるだけでなく、外出時の心理的負担の軽減など、誰もが暮らしやすいまちづくりにつながります。また、多様な来訪者が訪れやすくなることから、福祉の増進のほか、まちの活性化にも寄与します。 (1)老年人口の推移 本市の人口は、ここ数年では増減を繰り返しながらほぼ横ばいで推移しています。 年齢別では、15歳未満の年少人口と15歳から64歳までの生産年齢人口は減少傾向である一方、65歳以上の老年人口は増加傾向であり、令和2年には総人口の28.9%となっています。 表1-2 平塚市の年齢別人口の推移(単位:人) 平成22年 年少人口 34,517 13.2% 生産年齢人口 171,090 65.6% 老年人口 55,173 21.2% 計 260,780 平成27年 年少人口 31,692 12.3% 生産年齢人口 159,548 61.8% 老年人口 66,987 25.9% 計 258,227 令和2年推計 年少人口 28,680 11.3% 生産年齢人口 152,040 59.8% 老年人口 73,363 28.9% 計 254,083 令和7年推計 年少人口 25,809 10.4% 生産年齢人口 146,265 59.1% 老年人口 75,536 30.5% 計 247,610 (出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」) (2)身体障がい者人口の推移 本市の身体障がい者人口は、増加傾向にあり、ここ数年では増減を繰り返しながらほぼ横ばいに推移しています。 また、障がいの種類別のすべてが増加傾向にあり、「肢体不自由障がい」が最も多く、次に「内部機能障がい」の順となっています。 1.4 基本構想の位置付け 本基本構想は、バリアフリー法及び同法第3条の基本方針に基づき、本市の上位計画や関連計画と整合を図り、バリアフリー法の改正、旧基本構想の評価等を踏まえて策定します。また、基本構想に基づく事業計画は、策定後に事業者が作成し、本市でとりまとめを行います。 なお、本基本構想は、上位計画である「平塚市総合計画〜ひらつかNEXT〜改訂基本計画」に即して策定することから、SDGsに掲げられた目標への貢献を目指すものとします。 ※SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月に国連サミットで採択された持続可能な世界を実現するための開発目標(17の目標、169の個別目標で構成)をいいます。 (1)上位計画 ア 平塚市総合計画〜ひらつかNEXT〜改訂基本計画 「平塚市総合計画〜ひらつかNEXT〜改訂基本計画」(令和2年2月)は、市政運営の総合的な指針として、分野別施策と重点施策で構成されています。 関連箇所の抜粋 分野別施策2「安心して暮らせる支え合いのまちづくり」 基本施策2−D「障がい者福祉を推進する」 主な事業 心のバリアフリーの推進 分野別施策3「自然と人が共生するまちづくり」 基本施策3−C「快適な生活環境の形成を推進する」 主な事業 バリアフリーの推進 重点施策W「安心・安全に暮らせるまちづくり」 個別施策W−(3)「交通安全対策を推進する」 主な取組 バリアフリーの推進 ・基本構想に基づくバリアフリーの推進(バリアフリー促進事業) ・「心のバリアフリー」の推進(社会参加・交流促進事業) ※「平塚市総合計画〜ひらつかNEXT〜2021年度版実施計画」から引用 SDGsの目標との関連 目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」 イ 平塚市都市マスタープラン(第2次) 「平塚市都市マスタープラン(第2次)」は、本市の都市計画に関する基本的な方針を定めたものです。本冊(平成20年10月)及び別冊(平成29年10月)で成り立ちます。 関連箇所の抜粋 分野別の方針(本冊) 道路と交通の整備方針 道路の整備方針 歩行者の安全性や快適性を向上させ、高齢者や障がい者など誰もが容易に 通行できるゆとりある空間を確保するため、幹線道路などの整備に伴う歩行者空間の充実や自転車道、コミュニティ道路などの整備を進め、歩行者空間のネットワークの形成を進めます。 公共交通網と自転車利用環境の整備方針 バス利用の推進のため、ノンステップバスの導入〜などを進めます。 平塚駅周辺の交通の整備方針 平塚駅周辺は、誰もが鉄道やバスを利用して、安全で快適に移動できるよう交通バリアフリーを進めます。 住まいを支えるまちづくりの方針 住まい環境の方針 職住の近接や日常の買物圏を重視し、その中心となる位置に、日常必要な商業施設や公共公益施設、バス停などの交通施設などをコンパクトに配置し、誰もが歩いて暮らせる地域生活圏の形成をめざします。 ひらつかの魅力を高めるまちづくりの方針(別冊) 暮らし続けられるまちづくりの方針 歩いて暮らせる地域生活圏の実現をめざし、交通結節点へのアクセス向上のため、生活圏内の歩行者ネットワーク、各生活圏から交通結節点までの地域公共交通や自転車によるそれぞれのネットワークの充実に努める他、コミュニティバス等の地域公共交通の導入を図ります。 ※地域生活圏 日常生活や都市での活動に必要な諸機能がコンパクトにまとまった生活圏 ※交通結節点 異なる交通手段の接続が行われる場所であり、人や物の乗り換え等が行われる鉄道駅やバス停等 ウ 平塚市総合交通計画 「平塚市総合交通計画」(平成22年4月)は、「平塚市都市マスタープラン(第2次)」(平成20年10月)の交通部門計画として位置付けられています。 関連箇所の抜粋 将来交通体系 ・公共交通と自転車を中心とした人と環境にやさしいまちづくりを実現するため、 各交通手段の利用圏域に応じた交通体系の構築をめざします。平塚駅から徒歩圏内(中心市街地)では徒歩と自転車、自転車の利用圏域では路線バスと自転車、これを超える地域は路線バスを基本とした交通体系の整備に向け、走行環境の向上を図るための交通ネットワーク、各交通手段の連携が進むよう交通結節点を配置します。 ・地域生活圏の形成に向けてはバス停などを拠点としたまちづくりを一体的に進め、歩行環境の向上、地域公共交通、交通結節点の強化をめざします。   歩行者ネットワークのめざす方向 ・中心市街地内の移動のしやすさ、地域生活圏の形成を図るネットワークを配置します。 (2)バリアフリー法の改正概要   ア 移動等円滑化促進方針(マスタープラン) 平成30年11月の法改正により創設された「移動等円滑化促進方針(マスタープラン)」とは、駅を中心とした地区や、高齢者、障がい者等が利用する施設が集まった地区(移動等円滑化促進地区)において、面的・一体的なバリアフリー化の方針を市町村が示すものです。マスタープランの作成により、基本構想を作成していない地区等で、道路や建築物等の具体施設のバリアフリー化事業の調整が難しい段階においてもバリアフリーを促進させることができます。 イ 教育啓発特定事業(基本構想に掲げる特定事業) 令和2年6月の法改正により、基本構想において新たに「教育啓発特定事業」を位置付けることが可能となりました。当該事業を活用し、ソフト面のバリアフリー化を促進することが重要です。次の事業が、教育啓発特定事業として該当します。 教育啓発特定事業の該当事業 ・移動等円滑化の促進に関する児童、生徒又は学生の理解を深めるために学校と連携して行う教育活動の実施に関する事業 ・移動等円滑化に関する住民その他関係者の理解の増進及び協力の確保のために必要な啓発活動の実施に関する事業 (3)旧基本構想の評価等    バリアフリー法第25条の2(基本構想の評価等)の規定には、「市町村は、基本構想を作成した場合においては、おおむね五年ごとに、当該基本構想において定められた重点整備地区における特定事業その他の事業の実施の状況についての調査、分析及び評価を行うよう努めるとともに、必要があると認めるときは、基本構想を変更するものとする。」と定められています。 平塚市バリアフリー推進協議会では、バリアフリー法第25条の2に基づき、次のとおり旧基本構想の評価を行い、基本構想の継続の必要性と改定内容を確認しました。 ア 旧基本構想の評価(令和2年度末時点) ・全体を通じて概ね計画どおり事業が実施された。 ・一部の事業において、引き続き事業調整が必要である。 ・心のバリアフリー等のソフト事業は、継続が必要である。 イ 旧基本構想の改定内容 ・バリアフリー法及同法第3条の基本方針に基づき、目標年次の設定、各事業者と調整の上、基本構想に掲げる事業の目標を変更する。 ・バリアフリー法の改定を踏まえて、「教育啓発特定事業」を追加する。 ・重点整備地区(生活関連施設及び生活関連経路)を拡大する。 1.5 策定方針 バリアフリー法や上位計画、関連計画との整合を図り、本基本構想の策定方針を次のとおり定めます。 方針1 まちづくりの進展や利用者ニーズを踏まえて、重点整備地区を設定します。 本基本構想は、平塚駅を中心とした徒歩圏域において、高齢者や障がい者等を含む全ての方々が日常利用される生活関連施設(官公庁や福祉施設等)とこれらの施設間を結ぶ生活関連経路のバリアフリー化を重点的かつ一体的に実施していく地区を「重点整備地区」とし、旧基本構想の重点整備地区を基本として、まちづくりの状況や利用者ニーズを踏まえて設定します。 ※移動等円滑化促進地区の設定については、今後のまちづくりの進展や利用者ニーズを注視し、必要に応じて平塚市バリアフリー推進協議会で協議します。 方針2 すべての人にやさしいまちづくりの推進 本格的な高齢社会の到来を見据え、方針1で設定した重点整備地区内にある不特定多数の人が利用する公共施設等と、その施設に関連する経路において、移動の安全性の確保と快適性の向上を図るため、道路、電車・バス・タクシーの車両等、建築物、公園、路外駐車場、その他移動経路に関する施設のユニバーサルデザインを取り入れた一体的なバリアフリー化を進めます。また、誰にでもわかりやすいサイン等を活用した情報提供施設の設置を進めます。 方針3 心のバリアフリーの推進 誰もが高齢者、障がい者等の自立した日常生活や社会生活を確保することの重要性について理解を深め、日常生活のみならず災害時等にも自然に支え合うことができるようにするため、様々な機会を活用した教育活動や各種啓発活動により「心のバリアフリー」を推進します。 方針4 事業内容の段階的かつ継続的なバリアフリー化の推進 基本構想について、地域の高齢者、障がい者等が参加しつつ、関係事業の実施状況等を把握しながら成果の評価を行い、内容の段階的かつ継続的な発展を図ります。また、継続的な状況把握のためにまちの点検を行い、事業内容の改善を図ります。 1.6 目標年次 本市は、基本構想に基づきバリアフリー化の取組を継続的に推進するものとします。 また、本基本構想の重点整備地区における各施設整備(旅客施設、車両、道路、公園、建築物等)の目標年次は、バリアフリー法第3条に基づく基本方針(以下「国の基本方針」という。)に掲げる目標年次との整合を図り、平塚市バリアフリー推進協議会等を通じて、各事業者と調整の上、基本構想に基づく事業計画において具体の事業期間を定めます。また、国の基本方針等が改正された際には、事業期間の変更を検討します。 なお、本基本構想に掲げる“心のバリアフリーの推進”など未来永劫取り組むべき施策は継続的に推進します。