「不動明王二童子像」「佐波理匙他」を平塚市指定重要文化財に指定

平成28年2月5日

平塚市
担当 社会教育課文化財保護担当 若林 上原
電話 0463-35―8124
 

「不動明王二童子像」「佐波理匙他」を
平塚市指定重要文化財に指定

 
 平塚市教育委員会では、平成28年2月3日付で新たに「東川斎桂山(とうせんさいけいざん)筆 不動明王二童子像」、「佐波理匙(さはりさじ)他 山王A遺跡第4地点1号掘立柱建物跡出土 埋納資料一括」の2件の文化財を、平塚市指定重要文化財に指定しました。
 平塚市指定重要文化財は、今回指定の2件を含めて45件となります。
「佐波理匙」については、平塚市博物館で常時展示していますが、「不動明王二童子像」については、平塚市博物館情報コーナーで3月26日~5月8日の一般公開を予定しています。
 

「東川斎桂山筆 不動明王二童子像」1幅

 
 本図は、平塚市上吉沢の旧家で、30年程前、家の倉を整理したところ発見されました。平成25年に平塚市文化財保護委員による調査で東川斎桂山筆の掛幅であることが確認されました。
 本画には、画面向かって右下には「東川斎 桂山拝書」という墨書と白文方印「桂山」朱文方印「東川斎之印」といった二箇の印章が認められました。こうした落款印章は、既に平塚市指定重要文化財となっている、東川斎桂山藤原美信(ふじわら よしのぶ)の作品と一致するものです。更にそれらに共通する絵師の描法には、本図と相似するあくの強い筆癖が指摘されています。
 大きさは、縦110.6センチメートル×横42.8センチメートルで、燃えさかる火炎を背に、右手に剣、左手に羂索を持す不動明王を岩座に立たせ、岩下には蓮華を持つ恭敬小心者の矜羯羅童子(こんがらどうじ)と、五鈷杵(ごこしょ)と棍棒(こんぼう)を持つ悪性者の制吒迦童子(せいたかどうじ)を海波上に描いています。不動尊は七髻で頭頂に蓮華を頂き、身は青黒く、額に皺を寄せ、天地眼で牙を上下にはやし、矜羯羅(こんがら)の身色は肌色、制吒迦(せいたか)は赤色で、三尊ともに、瓔珞(ようらく)などの装身具や武器といった持物には金泥を用いて荘厳しています。その図像は、概ね通例の安然様(あんねんよう)不動十九観と一致するもので、立像である点や、やや誇張されて通俗的な面貌描写などは、近世期不動明王像に多い表現です。
 東川斎桂山藤原美信は、江戸時代末期の天保九年(1838)から十年前後にかけて、平塚市に逗留し、主に仏画を中心に制作していた絵師であることが、市内に現存する作品や伝承より認められています。本図もまた、近世仏画の持つ一種通俗的な表現を示す点や他の作例との相似性から勘案して、ほぼ同時期に制作されたものと推定されます。
 本図は、不動明王二童子像の近世的展開を跡づける典型例として貴重であるとともに、江戸時代末期における平塚市域の文化状況を伝える資料として貴重です。
 

「佐波理匙他 山王A遺跡第4地点1号掘立柱建物跡出土 埋納資料一括」

 
佐波理匙 全長264ミリメートル、匙面長60ミリメートル、匙面幅45ミリメートル、重量37.8グラム、須恵器甕・長頸壺他破片

 山王(さんのう)A遺跡は四之宮字山王に所在する遺跡で、集合住宅建設に伴い、平成4年(1992年)5月7日から8月5日に本発掘調査を実施しました。
 発掘調査の際、桁行(南北)4間、梁行(東西)3間の比較的大型の掘立柱建物跡が発見され、そこから出土した佐波理匙と須恵器片の一括資料です。
 この掘立柱建物跡は、出土した須恵器から8世紀末から9世紀初頭の所産と考えられ、当該資料は、南東側柱穴の掘方上層から一括出土したものです。須恵器の破片が重なるように配置された上に、佐波理匙が、匙内面を上にして立てかけるような状態で置かれていました。こうした状況から、建物の地鎮に伴い、一括して埋納されたものと推定されます。
 佐波理匙が遺跡から出土することは極めて稀で、寺院関連遺跡からの出土例の多いことが知られていますが、出土状態の明確でないものが多く、本資料(本佐波理匙)が出土した山王A遺跡は、相模国府推定地内にあり、この掘立柱建物跡が地鎮を要する寺院または、官衙の重要施設の一角であることが示唆されます。
 佐波理匙は東大寺正倉院南倉で匙面が木葉形と円形のものが伝わり、朝鮮半島新羅(しらぎ)からの舶載品と考えられます。本資料は木葉形で形状・材質・構造ともにこれらに類似します。このことから本資料が中央からもたらされたことは確実で、古代律令体制下の中央と相模国府の関係を示す資料として重要なものと考えられます。
 以上のように、当該資料は、古代平塚を考究する上で欠くことができない資料であるとともに、古代官衙・地方寺院研究にとって貴重な資料です。
 

用語解説

 
  • 掘立柱建物跡(ほったてばしらたてものあと)
 柱を地面に直接埋め込んで建てた建物の跡。通常は、柱穴を埋めた掘方が地面に残る。
  • 佐波理(さはり) 
 銅にスズ,鉛を加えた合金で,たたくとよい音を発するため響銅(さはり)とも書く。サハリの語は《和名抄》によると新羅の〈サフラ〉から転訛したという。
  • 不動明王二童子像の画像
  • 佐波理匙の画像