ごあいさつ
 

 このたび平塚市美術館特別館長を務めさせていただくこととなりました。歴史ある美術館の更なる発展のため力を尽くす所存です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 当館は、1991(平成3)年の開館以来、さまざまな企画展を開催するとともに、1万3千点を超える所蔵品を活用した展覧会、無料でご覧いただける若手作家の立体作品を中心としたロビー展、学校との連携やワークショップ、講演会といった教育普及事業、市民アートギャラリーやアトリエの運営など市の文化行政の一翼を担う積極的な活動を展開してきました。
 平塚市における美術館の成り立ちは、1945(昭和20)年の大空襲で大きな被害を受けた町の復興とともに、平塚在住の文化人が中心となった美術振興の機運が端緒となっています。市民運動としての美術館建設運動は、当時の加藤一太郎市長による平塚ゆかりの作家への作品寄贈の働きかけによりいっそう具体的に進みました。これは、「一作家一点寄贈運動」と呼ばれ、多くの作品が美術館建設のために寄贈されたといいます。こうした作品は現在も当館の作品収蔵の核となっており、その代表的な1点が平塚出身の洋画家鳥海青児による《石だたみ(印度ベナレス)》(1962年)です。
 官民一体となった美術館設立運動を経て、1986(昭和61)年には「平塚市美術館基本構想」が策定されます。ここで定められたメインテーマが「湘南の美術・光」であり、地域の方々が「憩いと喜びの中で創造の手がかりを発見するため」の美術館であるというコンセプトでした。この基本構想は、現在に至るまで館の礎となる考え方として引き継がれています。
 このたび平塚市美術館の特別館長を拝命するにあたって、美術館の活動に関わったすべての方々によって培われてきた豊かな文化的土壌を守り伝えるとともに、地域に根差す美術館として切望され建設されたという美術館の歴史の原点を深く受け止めることを大切にしたいと考えています。その上で、質の高い活動を継続し市民の方々とともに歩む美術館として新たな一歩を踏み出すことができれば幸いです。
 コロナ禍という未曽有の事態の中で、人とのつながりを失いかけるような経験をした現在、優れた美術作品をともに楽しむというリアルな体験を提供する美術館は、心の豊かさを取り戻すために大切な役割を果たすことができると信じています。美術館に来館された方々に「憩いと喜び」を提供するとともに、新しい発見に満ちた場であり続けるためにも、みなさまのお力添えを深くお願いする次第です。
 そして、だれでもが楽しむことができる美術館として、みなさまのご来館を心よりお待ちしております。

2023年4月
平塚市美術館 特別館長 加藤弘子