地方(さとび)と都市(みやび)の中間に位置する場所で、生活の場をユートピア=原風景に見立てて制作した作家たちを紹介します。
 
藤田昭子《出縄》の焼成、1976年  (c)中島秀雄 

概要

さとびとみやび
失われた理想郷を求めて

 
  • 主催・会場      平塚市美術館 展示室2
  • 会期         2023年6月24日(土曜日)~9月3日(日曜日)
  • 開館日数     62日間
  • 休館日        月曜日(ただし7月17日(月・祝)は開館)、7月18日(火曜日)
  • 開館時間       9時30分-17時0分(入場は16時30分まで)        
  • 観覧料      一般200(140)円/高大生100(70)円

※( )内は団体料金
※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料
※各種障がい者手帳をお持ちの方と付添1名は無料
※65歳以上で平塚市民の方は無料、市外在住の方は団体料金(年齢・住所を確認できるものをご提示ください)

担当 桑名真吾(当館学芸員)

詳細

   本展は、作家たちが都市と地方を行き来するなかで生み出された作品群を紹介するものです。
平塚市美術館が位置する湘南地方は明治期以降に開発が進み、都市にほど近い周辺地として、都市生活者の療養地、避暑地となりました。その海岸の美しいイメージに誘われ、芸術家たちはこぞってアトリエを構えましたが、彼らの多くは、都市の不安や騒がしさに満ちた生活から逃れようとした移住者でした。萬鉄五郎や岸田劉生を初めとする、大正・昭和初期に湘南で創作した春陽会の画家たちは、都市から地方へ、地方から都市へと移動するなかで、都市では失われつつある原風景を湘南の地に見出し、絵画のなかに表現することになります。
   このような都市から地方へと注がれる眼差しは古代から存在し、近代以降は「ここではないどこか」を求めて、作家たちは理想的な生活の在り方を国内の周辺地や、植民地支配地域に見出しました。大正期に河野通勢は故郷・長野の風景に神話の世界を見出し、濱谷浩は新潟・桑取谷の習俗を取材し、日本の原型を作品集『雪国』(1956年)、『裏日本』(1957年)に発表するなど、周辺的な世界をとらえる作家たちは、失われつつある風景を様々な方法で表現していることがわかります。1913年から国家プロジェクトとして台湾の先住民族へのフィールドワークをはじめた民俗学者・小林保祥は、調査終了後、公的な役割から離れ絵画制作を始め、ユートピアとしての集落を絵画で表現しました。彼らにとって、無垢な風景の追求が創作行為の根幹をなしていると言えるでしょう。
   最後に紹介するのは、人間が取り戻すべき原風景を表現し続けた、平塚市を拠点とする造形作家・藤田昭子の作品群です。藤田は戦後すぐに彫刻界で頭角を現しましたが、1970年代に入ると、「野焼き」と呼ばれる窯を使わずに野外で粘土を焼成する制作方法で、湘南の地に世界最大級のやきもの《出縄》(1976-77年)を出現させました。「人間らしい空間」の創造をかかげた藤田による集団での創作行為には、人間を疎外する都市生活に抗い、原始的な建築や共同体を生み出そうとする一貫した意思をみてとることができます。
   地方に住まうことへの関心が高まり、その価値が見直されている現在、本展が都市から地方へと注がれる眼差しについて再考する機会になれば幸いです。

展覧会のみどころ

1.湘南地方で活動した作家の作品を紹介します
明治・大正期に活躍した萬鉄五郎、岸田劉生らは療養のために都市から湘南地方へ移住し、都市との距離を保ちながら生活をつづけました。戦後には高良真木、本荘赳、入江観など、強い陽光によって均質化された画面の湘南風景が続々と生まれます。また、近年では保田春彦とシルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田の二人が、大磯で彫刻やドローイングを制作し、信仰の世界や、時空を超えた《白い風景》を生み出しています。

2.写真家、民俗学者が周辺地域に注いだ眼差し
民俗学的視点から人間の習俗をとらえた写真家・濱谷浩。新潟・桑取谷に取材した「雪国」(1956年)、日本海沿岸の生活を記録した「裏日本」(1957年)からは、濱谷が民俗学者との交流のなかで得られた視点を見てとることができます。また、1913年から台湾先住民族についてのフィールドワークを行っていた民俗学者・小林保祥は、帰国後の晩年に平塚市内で先住民族たちの生活風景を描きました。

3.造形作家・藤田昭子
平塚市を中心に活動し、一貫して人間の理想的な住まいをテーマに制作をつづけた藤田昭子の作品と資料を展示します。多くの協力者とともに、「野焼き」と呼ばれる窯を使わない焼成方法によって巨大なやきもの作品を制作し続けた作家の、初期から野焼きへと至る軌跡をたどります。


チラシ(PDF、1.13MB)
出品リスト(PDF、183KB)

関連事業

  • 学芸員によるギャラリートーク
2023年7月1日(土曜日)14時~14時45分
2023年8月20日(日曜日)14時~14時45分
平塚市美術館 展示室2
※申込不要、要観覧券
 
  • 講演会「湘南の誕生」
講師:増淵敏之(法政大学大学院政策創造研究科教授)
2023年7月29日(土曜日)14時~15時
平塚市美術館 ミュージアムホール
※事前申込不要(先着順)・要観覧券

出品作品

小林保祥《高砂族の生活》1940-45年
ミニオ=パルウエルロ 保田,シルヴィア《樹下に遊ぶ幼子イエスと聖母》1970年代 ミニオ=パルウエルロ 保田,シルヴィア
《樹下に遊ぶ幼子イエスと聖母》1970年代
大沢昌助《廃墟と静物》1949年
濱谷浩《雲と波と雪と家》(「裏日本」より)1955年
萬鐵五郎《雲と裸婦》1922年
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